プロジェクトの出発点
人々の生活の中で、捨てられずに残された「もの」についてお話を伺うプロジェクトを行いたいと考えました。2017年に群馬県高崎市で行ったプロジェクト「残されたものたち」をベースにしつつ、残された「もの」と、その理由を、写真とテキストとして一緒に見せられないだろうかというのが当初考えていたことです。
変化や移動の連続の中で残された「もの」は、どんな「もの」であるだろうというのが私の素朴な疑問です。
それはやはり、私たちと切り離すことの出来ない消費社会や地球環境に対する問題意識から出発しているということがありますが、同時に「もの」をつくるアーティストとしてどう「もの」と向き合うのかという自分自身への問いでもありました。
Starting Point of the Project
I wanted to realize a project where I could ask people to talk about“things”that have remained in their daily lives without being discarded. Based on the project “Things Left Behind” that I realized in Takasaki City, Gunma Prefecture in 2017, I wondered if I could present photographs of the“things”that have been kept by residents of Rikuzentakata together with a text explaining their significance.
My simple question was,“What kind of‘things’have remained in the midst of continuous change and movement ?”
This derives in part from my awareness of issues related to consumer society and the global environment, from which each of us are inseparable, but it is also a question I have been asking myself as an artist who creates “things”—how should I regard“things”?
With the help of KESEN AIR and the people of Rikuzentakata, I earnestly sought to consider this question.
ステップ・バイ・ステップ
正直に話すと、KesenAIRがはじまった昨年の春から夏頃には、来年以降は感染症の影響も落ち着いて現地を訪ねることが出来るようになるだろうから、今回のオンラインレジデンスはそのための準備期間になれば良いという気持ちでいました。
はじめは、日にちと時間を決めてzoomを利用したオンラインインタビューを行いました。オンライン空間で相手の方に出会った時には、どこかにパッと瞬間移動をしたけれどそれがどこだかわからないという感覚になりました。道や位置、方向感覚などの、場所の手がかりを失って宇宙にポツンと現れたような感覚です。それはこれまで未体験の興味深い感覚でしたが、お話をしてくれているその方がどんな場所にどんな風に住んでいるのかが伝わりづらいと感じたので、その後はインタビューに加えてその方の住んでいる場所の周辺の情報を試行錯誤しながら広く共有してもらいました。具体的には、家の中や周りの様子の写真、手書きの間取り図、GPS地図などがあります。
やり方を色々と試してもらう中で、特に「これは!」と思った方法があります。それは現地の越戸ご夫妻が家を出る時からオンラインライブを繋いでもらうという方法です。家を出て、車に乗り、窓にパソコンを向けて外の景色を見せてもらいました。車の中では世間話をしたり、道端でご近所の方に話しかけられたり、途中で寄り道をしたりしました。
些細なことのようですが、一緒に移動をすることや、余剰の時間、まわり道、偶然に起こる出来事が共有されることによって、わからなかった場所に対する感覚を得ることが出来たのだと思います。目的の周辺にあるけれど目的ではない時間を過ごすことが、その場所を体感するのに重要だったのだなと後々気が付きました。
Step by Step
Honesty speaking, when KESEN AIR started last spring/summer, I was hoping that the online residency would serve as a preparatory period for next year, when the effects of the pandemic would diminish and I would be able to visit the area.
The reason is that, while I had a vision of what I wanted to do, I had no idea what was actually possible. While entertaining such thoughts, the first online interview with local residents was conducted last summer through the guidance of Hirotaka Koeto and Sonoka Koeto, program coordinator of KESEN AIR, who are both vacant housing coordinators and are responsible for organizing left articles.
At first, we decided on a date and time to conduct online interviews using Zoom. When I met the other person in the online space, I felt like I was instantly transported somewhere, but I couldn’t be sure where. It was as if I had just appeared in space without any clue of where I was, having no sense of the street, location, or direction I was facing. It was an interesting sensation that I had never experienced before, but I felt that it was difficult to get a sense of the surrounding environment or the daily life of the person telling their story. And so thereafter, in addition to the interview I asked the coordinators to share, through a process of trial and error, information about the surrounding area. Specifically, this included photos of the interior of the house and its surroundings, hand-drawn floor plans, and GPS maps.
As the coordinators attempted various methods, there was one method in particular that I thought was effective. This was to have the Koetos begin the online connection from the time they left their house. After leaving their house, and getting into their car, I asked them to point the computer at the window so that I could see the view outside. While driving, we made small talk, talked to neighbors met on the street, and made various detours along the way.
It may seem trivial, but I think the shared experience of traveling together, the extra time this granted, the detours, and the unexpected events along the way helped me to gain a sense of the locale that I hadn’t been aware of. I later realized that spending time in the vicinity of the destination, but not the destination itself, was an important aspect of experiencing a place.
理解することとレプリカづくり
現地のコーディネーターの協力のもと、6人の方とオンラインインタビューを行いました。その方々自身についてお話してもらい、捨てられない「もの」と、その理由についても教えていただきました。転勤や引っ越し、火事で家が全焼してしまったことや、実家の解体、生前整理をした時のこと、また震災の時の様子とその後について、家についての様々なお話がありました。
オンラインインタビューは先ほど書いたやり方で、とても良い手応えで進めていましたが、(画面越しに)見たことや、聞いたことを、私は自分の知っていることとすることが出来るのでしょうか?
場所の雰囲気や空気のようなものを含んだかなり多くの情報を得ることが出来るようになり、また話された内容を言語的にきちんと認識出来てもいるはずですが、自分がそのことを理解出来ているのかどうか今ひとつ確信が持てませんでした。
そこで強引ではありますが、私はそれぞれの方の捨てられずに残された「もの」のレプリカを自身のスタジオでつくってみることにしました。自分の手で模してみることで「もの」とその背景により近づくことが出来るかもしれないと考えたからです。レプリカをつくるにあたっては「自らの生活圏内で材料を探してつくること」をルールとして決めました。
コロナ禍の新しい生活が徐々に普通の生活になっていく時に、ここで試したことや考えたことを特別な時のものとして切り離してしまうことなく、今後も活動を続けられれば良いなと思っています。
On Understanding and the Making of Replicas
With the help of coordinators, we conducted online interviews with six residents. We asked them to tell us about themselves, and also about the “things” they cannot throw away and the reasons for their keeping them. They spoke about relocating due to work, moving house, losing their house to fire, the demolition of their parents’ house, sorting through possessions, the earthquake and the aftermath, and many other stories about their homes.
Conducted in the way I described above, the online interviews provided a very good response, but can I regard what I saw (through the screen) and what I heard to be true knowledge? I was able to gather lots of information, including a sense of the atmosphere of the place, and I was sure that I could verbally recognize what was said, but I couldn’t be sure whether I had truly understood or not.
And so, I decided to make replicas of the “things” the participants had talked about in my studio. My reasoning was that by replicating them with my own hands, I might be able to get closer to these “things” and their historiess. In order to make the replicas, I decided on the rule that I would limit my search for materials to the sphere of my daily life.
As a new daily life triggered by the coronavirus gradually becomes the norm, I hope that I can continue these activities without separating what we have tried and experienced through this residency as something for a special occasion.
退職した時に家にいるのであれば
それをやるかなと思っていたところが
同業者の人があったったがら
小さい地区に二人はいらないなと思って
私は退いたったの。
あるいはやったらば
どういう結果にかなったんだがな。
ちゃんと役場に許可書ももらって、
判子までも預けられるような格好で、
今日でも良いような体制は
整えだったんだども、
お仕事はしねがったの。
そして私は母を看る身だったから。
5年も寝たきりでね。
そうしてるうちに母が亡くなってから
今度は漁業さ移ったの。
夫が漁業者だったから。
浜に出てアワビ取りの手伝いもした。
今でも未練がねえもの。
この時の決めた仕事が
「ああ」っていう風には思わねえもの。
悔いがねえがすね。
もの:看板
お話:高城千代
Object:Signboard
Story:TAKASHIRO Chiyo
作ってる過程が一番面白くてね。
出来上がってしまうとね、
あとはそのまま放り投げといたりして、
もう出来ちゃえばそれで
満足しちゃってるみたいね。
あとはもう次なにやろうかって
すぐそっちのほうへ向いちゃうからさ。
改めてそうやって聞かれるとね、
工具とかそういうのは大事にしてるね。
何十年と使ってるようなものもあるよ。
これがワイヤーストリッパーといって、
自動で電線の皮剥くやつ。
これも、何十年使ってるんだろうなあ。
東京にいた時代からだから
40年くらいはもう使い込んでる。
捨てないでよく使ってるな。
もの:ワイヤーストリッパー
お話:上野和雄
Object:Wire stripper
Story:UENO Kazoo
息子からもらったのね。震災の前の年に。
誕生日に兄ちゃんが
「何欲しい?」って言うから
「アルパカ欲しい」っつったらさ
「今の俺の給料では買えません」って
アルパカの人形もらったの。
まだ使ってない。使わないで飾ってたの。
兄ちゃんのブログがあって、
そこにも書いてあったんよ。
「使ったらいいのに、
飾ってあるからまあ喜んでんだろう」って。
いろいろ買ってたのね。
だから亡くなってから
届いたのもいっぱいあって。
姉ちゃんに来たのは
なんだかよくわからないCD。
歌が入ってない音だけのやつ。
姉ちゃんが欲しいって
言ったのかもしれないし、
もうどっちもいないから分からないけど。
もの:アルパカの人形
お話:戸羽初枝
Object:Stuffed alpaca
Story:TOBA Hatsue
父が亡くなった後に色々処理していて、
家に本当に荷物が
すっごい沢山あったんですよ。
そのものの整理はやっぱり大変でしたね。
これは父が亡くなる直前まで書いてた
連絡ノートってやつなんですけど
自分の受診日とか体重何キロとか
そういうのを書いてたんですよね。
これを見ると「父の字だ!」みたいな。
正直内容はそんなに見てないんですけど
書いたものって
結構捨てられなかったところがありますね。
人の筆跡って不思議で、
意外にすごく記憶とかに響くものがあって。
ものもそうですけど、そのものに残る筆跡って
何だか心に残りましたね。自分の中では。
もの:連絡ノート
お話:佐々木彩花
Object:Contact notebook
Story:SASAKI Ayaka
山田 悠 YAMADA Haruka
武蔵野美術大学油絵学科卒業後、フランスのエコール・デ・ボザール・ド・ディジョン(ディジョン国立高等美術学校)に留学し、空間デザインとアートの過程を修了。2つの領域での学びを通じて都市空間におけるアートの実践に興味を持つ。変動する都市環境の中で自らの行為をどのように作品として成立させることが出来るかについて関心を持ちながら、都市、自然、人間という要素を相対的に捉え、ものごとの関係を測り直す。
After graduating from Musashino Art University in Tokyo, she studied and graduated from Art and Space Design at National School of Art and Design in Dijon (Ecole Nationale Supérieure d’Art et Design de Dijon) in France. Through her studying abroad she came to focus on the Art practice in the real urban space. She is now interested in how to realize/reflect what she creates in fluctuating urban society to measure relativity with the city, the nature and the human.